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最高裁判所第三小法廷 昭和52年(オ)456号 判決 1979年4月17日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人柴田耕次の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係によれば、訴外安藤吉彦の死後、その共同相続人である被上告人、上告人ら三名のうち上告人らのみが財産相続を占有管理していたが、上告人らは、上告人らのほかに、所在は不明であるものの共同相続人として被上告人がいることを知つており、そのため、上告人らは、相続財産に属する本件不動産の一部について第三者から買受の申入れがあつた際、被上告人の所在不明により相続登記及び第三者への所有権移転登記が困難であるところから、その売却を取りやめた、というのである。ところで、共同相続人相互間における相続持分権侵害による紛争について民法八八四条の適用を当然に否定すべき理由はないが、右に述べた事実関係のもとでは、上告人らと被上告人との間の相続財産に関する本件紛争については同条の適用がないものと解するのが相当であり(最高裁昭和四八年(オ)第八五四号同五三年一二月二〇日大法廷判決・民集三二巻九号登載予定参照)、上告人らは、被上告人の相続持分権侵害排除請求ないし遺産分割請求に対して民法八八四条所定の消滅時効を援用してこれを拒むことができないものといわなければならない。原審の判断は、被上告人の相続持分権が否定されないとする結論において、これを是認することができる。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官横井大三の意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官横井大三の意見は、次のとおりである。

私は、本判決の結論において多数意見と同じであるが、その理由については、多数意見の見解に同調することができない。私は、前記昭和五三年一二月二〇日大法廷判決の大塚裁判官ほか五裁判官の意見と同様の理由により、共同相続人相互間における相続持分権侵害による紛争については常に民法八八四条の適用がないと解するものであり、その点において論旨はすでに理由がないと考える。

(裁判長裁判官 服部高顕 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己 裁判官 環 昌一 裁判官 横井大三)

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